福島県南会津町舘岩地区・前沢曲屋集落

2009.06.08

『田代山』を登った帰路舘岩にある『前沢曲屋集落』を訪ねてみました。20年ほど前にこのあたりをかなり頻繁に訪れていましたが、このような建物に全く興味がなかったのでその存在が分かりませんでした。前の通りを幾度となく通り過ぎていましたのにもったいない事をしました。

私の興味はその地の人々が暮らしている生きた集落を見せてもらえることにあります。生活が観光にすり寄った集落には全く興味がありません。街の暮らしはまさに毎日が商業主義の真っ只中ですから。

 

ショウブや芍薬の植えられてささやかな観光施設。そこから美しい集落が望めます。夕餉の煙が旅ごころを打ちます。

 

前沢集落は私の心を柔らかく揉みほぐしてくれました。茅葺屋根の小さな集落の普段の生活がそこにはありました。人々は夕暮れの畑を耕し、集っては語り・・・私はそのような生活の邪魔にならにように最大の注意を払いながら密やかに歩かせてもらいました。田代山への旅に大きな実りを加えてくれた前沢集落訪問でした。

舘岩川に架かる橋を渡ります。集落には一般車両は進入禁止です。橋の手前に売店や小さな駐車場があります。もしかしたら日曜日には観光バスが押し掛けるのかもしれません。道は山に向かって緩やかに上ります。左に『曲屋資料館』があります。右にはショウブや芍薬の植えられた花壇があります。

集落は茅葺の曲屋と普通の家とが混在して建っています。それは生きている集落では当たり前のことです。自分の生活を営むための家なのですから自分の暮らしに最適な家に誰でも住もうと思うでしょう。集落の中には厭らしい売店や蕎麦屋等は見られません。観光とは舘岩川を境にすっぱりと分かれています。心地よい清潔な集落の姿です。トタンの屋根や壁の家もあります。全て生活の為の生きた家です。観光の為に恰好だけそれらしくしない家並みがとても好ましいと思いました。2009.06.08

何軒かの曲屋は足場を組んで修理を行っていました。維持するのはそれなりの苦労があるのだと思います。観光と言う誘惑との距離を測りながらの維持管理の苦労を思うと同時に、共同体の中での生活の安らぎ(余所者では難しい事です)を羨ましいとも思いました。

訪れた時は人々が夕餉の支度にとりかかる時。集落の中を邪魔にならない様に歩かせてもらいました。延々と続いた南会津の人々の暮らしが建物から少し見る事が出来ました。寒さの厳しかった往時の冬、雪は丈余も積もったのです。人々は2階からの出入りを余儀なくされたことでしょう。2階の出入り口がその事を教えてくれます。

大切な労働力である牛馬とともに暮らした茅葺の屋敷は今でも普通に使用されています。つまり生きた建物なのです。

ささやかな観光施設です。水車小屋が建っていますが実際に使用されているようには見えません。豊かな水が勢いよく流れて力強く水車を回しているのが救いです。『曲屋資料館』がありました。入館料は大人で¥300程だったような気がします。

前沢集落に戻ってくる二人の野球少年と出会いました。練習の明け暮れが日焼けした顔と澄んだ瞳に表れています。見づ知らずの余所者の私に二人が『こんにちは』と声を掛けてくれたのです。私の心は大きな潤いを感じました。

一人の子はキャッチャーらしくドカベンのような体躯、もう一人は内野手か精悍な体躯。私は久方ぶりに子供の『純真』に出会いました。私の旅の心に大きな印象を残してくれた二人の少年は話しながら夕餉の煙がたなびく集落への坂道を登って行きました。

幸せな事に舘岩の湯の花温泉でも旅人にこんにちはと声を掛けてくれる少年に出会いました。もしかしたらそれは村のしつけなのかとも思いました。そうだとしたらたとえようもないほどの豊かな心の徳育ではないかと思ったのです。心地よい思い出を残してくれた少年達に感謝した次第です。

03/15/2019
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