紅葉の月山・その1弥陀ヶ原 その②へ  その③へ

久しぶりに仕事の合間の時間がとれたので、前から望んで叶えられなかった藤沢周平の物語の町鶴岡市を訪ねて見ることにしました。それなら、藤沢周平が何時も見ていた月山へ登りその暮らした町を俯瞰してみたいと思ったのです。

更に月山は古くからの山岳信仰の山、羽黒山も共に尋ね芭蕉の『奥の細道』の跡をも辿ることができると、籠一杯の楽しみを背に街を後にしました。月山は芭蕉の言葉を胸に入れながら同じ道を辿りました。時はまさに紅葉の盛りでした。緑の笹が覆うなだらかな山腹にはナナカマドの赤い実、楓の類は真っ赤や黄色の葉を輝かせています。吹き渡る風に揺れる広大な草もみじの原、遅々として足は進みません。2009.09.28

雲の峰幾つ崩れて月の山(芭蕉)

芭蕉の道と思えば更にゆっくりと歩きたいと思うのです。立ち止まり立ち止まりしながら3時間掛けて月山頂上への散策となりました。それは街に帰った今も満ちたりた思い出に胸が膨れている程のそれは楽しい旅でした。曽良旅日記によれば1688年(元禄2年)6月6日(新暦7月22日)弥陀ヶ原を経て月山に登り、7日に湯殿山を訪れ、同日再度月山へと引き返しています。奥の細道記載の八日とは異なっているようです。

月山8合目駐車場発AM5:45→仏生池7:30→月山頂上着8:34・月山頂上発9:05→月山8合目駐車場着11:00

旅への出立

夜明けの月山8合目から鶴岡市内方面を望む。青の外気に街の明かりも沈み込んでいます。

駐車場には他に3台の車が止まっています。私も車の中で毛布に包まって仮眠をとりました。眼下には藤沢周平の鶴岡の明かりが広がり、見上げれば芭蕉の月山が望まれます。

仕事を終え街を後にしたのが夕方6時半、東北自動車道に入り暮らす村に立ち寄りたいとの思いに区切りをつけた頃から雨が時折フロント・グラスをたたきます。村の景色を見ながらインター・チェンジを通過。山形自動車道に入ると更に雨は勢いを増して来ます。車がほとんど通ることもない真夜中の道はトンネルが時折暗やみに光の口を空けて空想の世界を走っているようです。坂とカーブの山形道の両側は山に囲まれている気配、最後の月山インターチェンジには夜中の12:21分到着。国道112号線に経由で『あさひIC』に出て44号線の交差点を右折。羽黒山の大鳥居をくぐり右折、長い山道を登って月山8合目の駐車場へ。足下には眠りについている鶴岡の町の明かりが見えます。車の中で仮眠、風がひゅうひゅうと鳴っています。

街出発 PM6:40(東北自動車道へ)→暮らす県境の村のIC通過PM9:05→安積SA発PM9:40→月山IC通過PM12:21→国道122号経由月山8合目駐車場着AM2:00 都合約7時間のドライブでした。

弥陀ケ原から仏生池まで

朝5時45分、駐車場から山道に踏み出すと、未だ明けやらんとする空の下、眼前に茫漠とした弥陀ヶ原が広がっています。一面の草紅葉、風に揺れています。人っ子一人いない静寂の舞台を独り占めです。

紅葉が単調ではありません。黄色・赤の木々に緑の笹原、そして薄茶色の草紅葉。程よく混ざり合って複雑な美しさを見せてくれます。そして大小の池溏、それは空を、あたりの紅葉を写す万華鏡です。

日の差し込まない弥陀ヶ原は未だその美しさの全貌を見せてはくれません。紅葉のハーモニーは日が昇ると共に登場です。憎らしいほどの演出です。千両役者が日と共に姿を現します。

此処まで生きてくると多少の事では感動しなくなっています。心が洗われるような感動を経験をする事が難しくなりました。病は心の柔軟性の欠如です。この景色なら病も癒されるというものです。山の端から上る太陽を原始人のごとく伏し拝みます。

この弥陀ヶ原は標高が1500メートルほどあります。既に高山植物は幾つかの種類を残して冬支度です。

それらの草草は、風に揺れながら濃い黄金色に一帯を染め分けています。これから進む山への道、先には点々と紅葉の塊が待っていてくれるのです。

下山時に分かったことですが、観光バスで訪れる人々はこの辺りを散策してあたふたと帰路に着くようです。紅葉の高原に足を踏み入れる人は僅かなようです。

古い修験道の道、石畳が綺麗に整備されています。営々と続けられた人々の労苦の上をただ景色だけを堪能しながらの散策。ありがとうございますと呟きました。

少しずつ木々が現れてきます。既に道の角を曲がるたびに赤と黄色と緑の色のハーモニーが私を感動させてくれています。

ここから道は緩やかに登り出します。弥陀ヶ原を振り返りました。未だ摩訶不思議が多くの人々の心を捉えていた時代には池溏は鏡となって輝き、草もみじの原は天上の極楽に思えたことでしょう。

多少の事では感動しなくなった私でさえ、複雑な美しさに見とれているのです。

芭蕉の訪れた頃は残雪と可憐な草花がこの原を覆っていたことでしょう。

さていよいよ紅葉の木々の中に踏み込んで行きます。月山への感動の旅は始まったばかりです。

この景色が私の進む道です。月山の頂上が正面の山と思ったのですが大間違いでした。幾つかの山を通り過ぎた先にそれはあります。嬉しい事に物語は簡単に終わらないようです。芭蕉の句を、呟きながら林の中に踏み込んでいきました。

2009.09.28

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06/02/2019
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