錦繍の紅葉と冬の北岳3129メートル・③下山 その① その②

富士山は余りにもなじみ過ぎた山です。冬には街からも見えるお馴染みの姿です。この日の夕暮れに見た富士は霧に包まれた柔らかい富士、今までにない印象を与えます。夕焼けの色も極めて微妙です。なんとも静かな富士山を見る事が出来ました。思わせぶりに撮る技術もありませんしそうしたいとも思いません。その時の、感動したあるがままの冨士の姿を思い出として素直に残しただけなのです。ここは北岳肩の小屋の前、それでも標高は3000メートルあります。2009.10.19

北岳肩の小屋

頂上から降りて北岳肩の小屋の扉を明けると中は電気がついてストーブが燃えています。ふきっさらしの稜線で体が冷えていたのでほっとしました。山小屋泊まりは始めての経験です。ご飯は美味しくおかずの種類も多いのに驚いてしまいました。ご飯と味噌汁のお代わり自由と言うのでお言葉に甘えてしまいました。平日でそろそろ小屋を閉じる季節なので大変空いているようです。我々を入れて7人ほどの人が泊まる事になりました。

ストーブをたいても寒さが強く中々体が温まりません。私は腕立て伏せとスクワットをやって少しは暖かくなりました。小屋の若い人も腕立て伏せで体を温めていたのを見てやはり寒いんだと納得しました。結局朝までうつらうつらしただけでした。

朝の外気は小屋の屋根の近くでー2度程度、外の風当たりの強い所はー7度ほどです。確かに寒いわけです。夕食の時一人の人が日没の時間をしきりに聞いています。慌てて食事を中断して私も外へ出てみました。仙丈岳の左側に真っ赤な太陽がまさに沈もうとしていました。荘厳なドラマです。最後に縦に名残の血の様な線がたって沈んでいきました。

僅かのガスの晴れ間に見えた富士山です。北岳の斜面には更に雪が吹き付けられていました。2009.10.19

下山・肩の小屋~御池小屋

出発の朝です。風は強くガスが中々晴れません。とっくに間ノ岳へ行くことは諦めていましたので、せめて晴れてから景色を見て下山しようと思って待ちました。瞬間的にガスが切れても続きません。諦めて下る事にしました。北岳の斜面の白さが一層増したようです。午後2時の定期バスの時間に間に合えば良いので十分散策の時間を取りながら下りる事にしました。2009.10.20 

北岳肩の小屋発8:00→御池着10:10・発11:00→広河原着13:50

肩の小屋からはガスが視界を狭めますが下り道、気楽です。冬に変わる景色を眺めながら雪が薄く積もった道を快適に進みます。強風も相変わらずです。

暫く下るとガスが晴れ北岳が全容を現します。一日ですっかりその白さを増しています。いつの間にか風も止み少し日が差してきたようです。

何とも心地よい下り道です。下に御池が見えてきました。辺りは紅葉が盛りのようです。御池より上では既に多くが枯れてしまい、後は葉を落とすばかりです。

昨日登った八本歯のコルがはっきりと遠望できます。御池に北岳が写りこんでいます。何とも陳腐な画面ですがこの時は自分が登った山だったせいか美しい景色と思ったのです。

ホテルのように綺麗な御池小屋も冬篭りの準備のようです。ヘリで運ぶ荷物が大きなネットの中に入れられています。この地の冬は駆け足でやってきます。小屋の前で残してきた梨を食べました。甘い果汁が喉を通ります。山では寒くて食べる気がおきませんでした。
御池~広河原・錦繍の紅葉
御池を過ぎると道は原生林の中へと踏み込んでいきます。木々の精気に満ちた心安らぐ一帯です。3000メートルの山なみから野呂川に落ち込む長大な斜面の黄金色の紅葉はこのようなものです。緑の中に黄金色の塊が点々と続きます。この紅葉の帯は野呂川の両側の長大な斜面に延々と続くのです。一般の車は入れないのでその美しさを堪能できる人はそれほど多くはありません。

何と柔らかな木々の葉でしょう。下から見ると黄金色の葉が日の光を通してすきとおります。

ここに根付くべくして根付いた木々です。人間の手助けなど期待せずに喧騒から遠いこの地で厳しい冬を越すのです。

沢に沿ってこの木が何本か並んでいます。一本の木から増えた一族なのではないでしょうか。何と言う美しさかと見とれてしまいました。彩りの抑えた艶やかさ、葉の姿の躍動感、この季節、山深いこの地を訪れる僅かな人々だけが得られる感動です。

一帯を支配するのはあくまでも静寂です。そして目にするのは、ほぼ無垢の自然の生み出す極めつけの美です。なんと贅沢な事でしょうか。2009.10.20

小沢の流れの脇で昼食をとりました。余り早く下っても長い時間無為にバスを待つだけです。昨日来のおにぎりは未だ凍ったままです。いささか噛みごたえがありますが、この景色をおかずに2個ずつ食べました。食べるおかずはゆで卵と梅干しを1個づつ、すっかりくつろいでしまいました。

同行の友と何度感嘆の言葉を述べあったことか。針葉樹の緑の中の黄金色、僅かな紅が更に深い美を生み出しているのだ、多様な色合いが良いという事で意見が一致したのです。

小沢で水を汲みました。家でお茶とコーヒーでも飲みましょう。2009.10.20

むせかえるような木々の精の中、紅葉に歓声を上げながらゆっくりと下ります。ぽっと広河原に出てきました。本当の旅の終わりです。

野呂川に掛るつり橋を渡ります。後方には登った北岳が望まれます。このあたりは紅葉の盛りです。

上高地の河童橋に似ています。いずれ観光名所になるでしょう。橋を渡ってバス停に歩いて行くと観光客の人がかなり来ているのです。いずれこの橋が観光客であふれる日が来るかもしれません。2009.10.20

吊橋から上流を望みます。北沢峠に向かっています。3000メートルからなだれ落ちる斜面は紅葉の帯です。バスで下る芦安温泉方面の下流の崖は100メートル位あるところも珍しくありません。一面の紅葉が驚くほど延々と続くのです。

広河原に帰り着きました。そこでは河川改修が行なわれているようで重機が大きな音をたてています。私の好みで言えば観光地の喧騒は避けて通りたいものですが地元の人々の働く騒音はそれほど気になりません。働く姿もぴたっと景色の中に溶け込んで見えるのです。楽しい旅の思い出を作ってくれた北岳が紅葉の奥にそびえています。

随分ゆっくりとしてきたのですが午後2時のバスまでは間がありそうです。そう思いながらバス停に歩いて行くと乗り合いタクシーが出るところでした。バスからかなり観光客が下りてきたのにびっくりです。乗り合いタクシーに飛び乗って途中の延々と続く野呂川の紅葉を満喫しながら芦安温泉へと下りました。2009.10.20

『錦繍の紅葉と冬の北岳①②③』終了。

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06/02/2019
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