|
|
北岳の頂上が近くなりました。空の色はテレビで見る宇宙空間から見た地球の色です。その中に浮かぶ360度の展望、富士も3000メートルの峰々が続く南アルプスもほぼ同じ目の高さです。稜線は体を持って行かれそうな強風、日蔭は雪が固まっています。強風に体温を奪われ指先は感覚が無く口がきけなくなりました。それでもこの贅沢な景色の舞台から去りがたくかなり長く滞在することになりました。2009.10.19
|
八本歯のコルへ |
大樺沢の二俣からいよいよ本格的な登りが始まります。天気は快晴、素晴らしいバットレスの姿を右手に見ながら八本歯のコルを目指します。天気は崩れそうもないし、今日は小屋どまり、のんびり行こうと決めています。
|
|
中腹は風も弱く日当たりがあります。空気は冷たくはありますが極めて快適な日和です。途中バットレスから流れる水の横で昼食をとりました。天然水を口に入れながらおにぎりをほおばります。 |
|
これほどのレストランのローケンションはめったにあるものではありません。沢水の飛沫が丸い氷玉になってびっしりと固まっています。寝不足解消の為に少し仮眠をとります。素晴らしい風景の中でのしばしの睡眠は極めて贅沢なものです。
|
|
|
八本歯コルへの急な登りが始まります。右にバットレスを見ながら左側の凹凸の見える稜線を目指します。息が切れます。
|
|
|
沢に雪渓が残っています。解けずに雪で覆われてしまうでしょう。登る道の背中には鳳凰三山が道連れです、目の高さに近づいてきます。 |
|
|
|
八本歯の稜線が近づいてくると梯子段が現れてきます。梯子は稜線までほぼ連続して続きます。バットレスは指呼の間。それでも北岳の頂上は見えません。高度はぐんぐんと上がります。日蔭の雪は固まっていて滑ります。
|
|
|
|
稜線までは梯子段の連続です。手袋を持たずに来たので想像以上の寒さがこたえます。素手で登っていたら爪が割れてしまいました。同行の友人に聞くと予備を持っているとの事、早速手袋を借りて登りました。
|
|
日蔭の向こうに青い空が広がっています。いよいよ八本歯のコルです。滑る雪の道を踏みしめて登ります。舞台がぐるっと回ります。前を遮っていた斜面が消えて景色が見渡す限りの広がりをもって表れてきました。
圧迫感が消え、きつい登りが一段落という安心感のせいか景色を見る心のゆとりが出てきます。それは心地よいものです。 |
八本歯のコルから稜線 |
|
|
八本歯のコルからは大きく広がった空の中の散歩道です。時折体を持って行かれそうな強風の合間に山の景色を楽しみます。
|
|
|
風を避けて石の影で一休み。この空の青さはどうでしょう。強い紫外線のせいか顔の肌がひりひりしてきます。たいした面相でもないので気にはなりませんが、帰ったらきっと皮がむけるのでしょう。
頂上はどれか見当がつきません。写真をとり景色を眺めながらののんびり旅ではかなり時間がかかるでしょう。 |
|
楽に歩けるのですが、稜線にも時折無粋な階段が出てきます。所々に補修用の丸太や針金が置いてあります。きれいな木製の階段は人力で管理する人々の苦労のたまものでしょう。 |
|
|
『富嶽百景』の作者太宰治なら北岳からの富士山をなんと表現するのでしょうか。絵葉書のような、風呂屋のペンキ画のような天下茶屋からの富士を赤面するほど恥ずかしい姿と言っています。
山から富士山を見るたびに作者を連れてきて聞いてみたいものだと思うのです。
遠くから見た今日の富士山は俗を取り払った清らかで美しい姿に思えるのです。
|
|
振りかえると富士山がどんと鎮座しています。どこに行ってもまず目印の富士山を探してしまいます。今日は頂上に雪をかぶせた姿がはっきりと見えます。見えると立つ位置が確認できてどこか安心です。 |
体力が残っていれば明日訪れてみたいと思っている間の岳が見えます。日蔭は雪の白さがはっきりと残っています。
結局、翌朝は強風と悪天候、その中を進む体力が残っていませんでした。間の岳は断念することになりました。 |
|
左に北岳山荘への分岐点が見えてきます(左側写真)。このあたりから風の力は更に強まります。体温を奪われるので下もレインウエアーを着用しました。油断すると体を持って行かれそうです。ガレ場をゆっくりと登ります。この斜面を登りきると道は右に曲がって頂上直下の最後の急登となります。 |
|
風の吹き付ける方向に体を倒すようにして登ります。頂上はあと僅か、それでもその僅かが百里の道ほど遠いのです。 |
|
後ろに間の岳への稜線が見えます。一番低い所に赤い屋根の北岳小屋が見えます。広大な自然の中ではちっぽけで頼りなさそうに見えます。強風に耐えているようです。
|
いよいよ北岳の頂上が近づいてきました。白い棒が見えるところが頂上です。この山旅でもう上に登る事はありません。旅の終わりです。苦しい息切れからの解放でもありますが、旅の終わりの寂寥感を感じる時でもあります。 |
|
北岳頂上 |
北岳頂上の看板を甲斐駒をバックに撮影しました。ひときわ白い岩肌が目立ちます。左に鋸岳を従えて山脈から離れてすっきりと起立しています。とんがり具合も申し分ありません。 |
|
間の岳の右に塩見岳が見えます。塩見岳から阿倍荒倉岳・仙丈岳へと続く南アルプスの長大な山脈です。懐かしい景色をみて感慨ひとしおです。それは40年以上も経た古くて大切な思い出です。 |
|
|
|
↑頂上から富士山の反対側正面に仙丈岳の緩やかな山容が見えます。夕方になるとその稜線に真っ赤な太陽が沈みこみます。
←白く輝く岩肌の甲斐駒の左に懐かしい鋸岳の稜線が一望できます。今見ると稜線にそれほどの凹凸が見えないのは意外な気がします。少し日が翳ってきた気配がします。
|
|
|
頂上から寒さで回らなくなった口で携帯電話をかけてみました。友人は仕事のメールが来たと互いに静かな自然の中で無粋な楽しみを経験しています。日が落ちる前に肩の小屋へと下りだします。下り道は日陰が多くなり薄い雪の積もった道、凍っている個所が多くなります。2009.10.19 |
|
|
06/02/2019 |
|
Copyright (C) Oct. 10,2007 Oozora.All Right Reserved.
|
|