狛犬を訪ねて№20・①福島市の狛犬 野田平業の狛犬 ②へ  

 

福島市・八幡神社・野田平業狛犬・大正12年(1923年)・25歳作品

2018.04.09、北国にも桜が満開を迎えたころ、野田平業のお孫さんという方からのメールで知らせていただいた福島市にある平業の狛犬を見にやってきました。道々、狛犬巡りに相応しい静かに咲く一本桜を訪ねながら北へと道を辿ります。桃の産地である福島市では果樹園の桃の花が出迎えてくれました。野田平業の狛犬をご参照ください。

昨年ご一緒に白河市の平業の狛犬を鑑賞しましたが、その時、来年の春・桜の咲いた頃に訪れたいとずっと思っていた計画です。 平業の住む福島県南端の白河市から直線距離で北に約90km離れています。私の知る限り平業の狛犬が見られる南端は白河市から約28km程の那須塩原市の乃木神社です。凡そ120kmの距離になりますが、これだけの広い範囲の人々から注文があった事は刮目するに値することだと思いました。

彫刻師と称した平業ですが、自ら表現したいことを野放図に造形につぎ込むことは出来ないわけで、依頼主の希望という越えがたいタガがはまっているという自明の理があります。絵師になる事を望んでいた平業には、殆どの依頼主が望んだ定型的な造形の範囲内で、ただ作るだけではなく、自らの表現をしたいという抑えがたい意欲があったのではと推測されます。残された作品を見る人に、何らかの驚きや感動を与えるにはそれを生み出す技量が大いに力があったと思われます。

今回目にした3つの狛犬は平業の技量が生み出した表現力が良く出た作品だったと思います。2018.04.09

野田平業の狛犬巡りは満開の桜を見ながらの旅でした。それらは静かに咲く一本桜です。
桜の道を辿る・北国の桜・目次・2018年4月9日~10日
①福島県白河市~須賀川市 ②二本松市 ③白河市1 ④白河市2 ⑤桜と狛犬
野田平業の狛犬をご参照ください。
福島市・愛宕神社

愛宕神社住所:福島市飯坂町湯野愛宕山公園内。

グーグル・マップに神社ははっきりと記載されています。国道399号線脇の小山の愛宕山公園の一角にある神社です。出発前に調べると、温泉街の山の上の神社らしいのでまず駐車場が心配になりました。グーグル・マップで調べたのですが分かりませんでした。又マップには神社の番地の記載がないので、近くの共同浴場 仙気の湯(福島市飯坂町湯野愛宕前35)をカーナビに入れて神社を目指します。2018.04.09

飯坂温泉駅の前を通り過ぎて摺上川の橋を渡ると地図で調べた国道399号線に出ます。目の前に小山状の愛宕公園に出ました。仙気の湯方向に国道を山沿いに回って見ましたが駐車場が見当たりません。

国道の橋際のトイレまで戻って、左方向に山沿いに進むと地元の方が居たので伺うとこの小道を進むと神社があり駐車場もあるとの事です。トイレから山を右に見て、50m程進むと道が分岐して右に愛宕山公園の標識がありました。この道が狭くて急で危なっかしい道です。何とか進んで行くと嬉しい事に神社が見えてきました。その前に方向転換も可能な駐車スペースがありました。福島交通飯坂線飯坂温泉駅からは500m程です、歩いて登る長く急な石段の参道の入り口は国道の脇にあります。2018.04.09

神社の裏手に車を止めてから神社の正面に回ります。鳥居が見えます。

下を見ると、国道399号線にあった神社の入り口が見えました。駅から来た時の登り口です。
愛宕神社狛犬

思惑通り丁度満開の桜の季節を迎えているようです。素晴らしい神社の見晴らしです。福島市内で初めて目にする野田平業の狛犬です。平業の白河の作業場から随分遠くまで運ばれてきたものだと、狛犬の長い旅を思いました。右に置かれた阿像、表情が豊かで落ち着いた印象を受けました。平業の技量をさり気なく示す籠彫りの玉が破損しているのは残念な事です。2018.04.09

阿像から吽像を写しています。桜の花が彩を添えています。

空気が澄んでいれば柵の向こうの空に残雪の安達太良山吾妻山が見えるのですが、残念ながら春霞が掛かっているようです。平業の狛犬は素晴らしい景観の神社に奉納されていました。2018.04.09

阿像の狛犬台座に”磐城白河之住 彫工 野田平業作” と”石工 池田一雄”の掘り込みがありました。吽像には”石工 x木金七”と一部が見えない石工の人の名前が彫られていました。因みに磐城白河之住の表記は白河市の羽黒神社の狛犬と同じ表記です。狛犬は野田平業で間違いのないので、台座や石組などの作業を行った石工の人の名前と推定されます。残念ながら年代がいくら探しても見つける事が出来ませんでした。磐城白河之住の表記や作りなどから昭和10年代か其れ以前の作品ではないかと推測しています。2018.04.09

左に置かれた狛犬で子供が彫られた吽像。

奉納した人の尽力のせいか彫りはかなり複雑で細かい仕上がりになっているようです。良い狛犬に出会えることが出来て街からの遠い道のりが無駄ではありませんでした。2018.04.09

 

更に神社の奥に向かう道があったので進んでみました。高い所に小さな社がありました。

素晴らしい見晴らしです。眼下に飯坂温泉の町が見えます。空が澄んでいれば安達太良や吾妻山が見えるのですが今日は春霞でかすんでいます。

更に進んでいくと畑らしきものが現れて道は笹薮の中に消えてしまいました。畑には桃が植えられているらしく満開です。

2018.04.09

桜の花も咲いていました。神社の案内板には桜の名所と書かれていたので何処か別に桜が見られる場所があるのかもしれません。

今日は未だ回るところが沢山残されているので残念ながら次の水雲神社に向かうことにします。2018.04.09

神社を去る前に長閑な春景色が広がる境内の佇まいを写しました。帰りの細い道の下りは慎重に進まなくてはなりません。2018.04.09

神社の下に作家・宮本百合子の記念碑が見られます。飯坂を訪れ、小説”禰宜様宮田”創作のきっかけとなったと書かれています。
 

伊達市・水雲神社

水雲神社住所:福島県伊達市伏黒宮本19 。福島市愛宕神社から水雲神社に進んできて399号線を左折すると神社の赤い鳥居の前に出ました。心配だった車は境内に止める事が出来ました。

辺りは人家と果樹園が見える静かな場所です。 2018.04.09

水雲神社狛犬・野田平業昭和14年(1939年)

綺麗に浄められた境内に平業の狛犬が置かれて居ました。狛犬の歯と目の部分が彩色されているせいか、表情がどこか活き活きとして見えます。

若干大型で出来の良い作品に見えます。素人で名称が分かりませんが、体に彫られた多数の丸い凸部にも細かな彫りが見られます。籠彫りの玉も若干大型です。2018.04.09

阿像から吽像を見ています。後側の彫りもかなり手が込んでいるように見えます。平業は依頼主の希望に応えるだけの技量の持ち主でその用意も常にあるのですから、これは偏に狛犬を奉納した人の喜捨のお陰と言って良いのではないでしょうか。

台座には奉納された日付と奉納されたと思われる氏子の方の名前が見えます。”石工 霧山 慶一”の彫りも見られます。狛犬は野田平業の作品ですので、しばしば見られる石組等を製作した職人の名前と思われます。2018.04.09
野田平業の通常の例にもれず狛犬が乗った石の横に名前が彫られていました。”白河町字横町之住 彫刻師 野田平業作”と彫られています。

左に置かれた吽像も歯と目に彩色が施されていて表情が生き生きとして見えます。

足下に子供の狛犬が彫られています。尻尾の部分の毛が複雑に絡み合っている彫りなどを見ると、奉納した人がかなり手が込んだ依頼をしたのだと感心しました。2018.04.09

神社の入り口に植えられたソメイヨシノと思われる桜が満開でした。ここまで二つの出来の良い野田平業の狛犬に巡り合えて大きな満足を覚えています。

これから同じ伊達市内の受円寺の枝垂れ桜を見てから福島市内の八幡神社に向かうことにします。2018.04.09

福島市・八幡神社

人家が辺りを取り囲む中に鎮座する神社です。風格のある屋根の社殿が鎮座する静かな境内でした。

近くのそろばん塾の生徒と思える子供達が手を合わせて行きました。

狛犬はやや大型で極めて印象的な造りの狛犬でした。野田平業25歳の作品です。前年に、個人的に平業の出来の良い狛犬の一つであろうと思っている白河市の南湖神社の狛犬を製作しています。2018.04.09

八幡神社住所:福島市八島田東本庄町。グーグル・マップに番地が載っていなかったので近くの八島田駐在所(福島市八島田東本庄町1)をカーナビに入れて向かいました。人家の中の神社で駐車が心配でしたが、交番の角を曲がり一本目の道を右折して直進すると神社に出ました。有難いことに境内に駐車スペースがありました。
福島市・八幡神社・野田平業狛犬・大正12年(1923年)・25歳作品

右に置かれた阿像と思われます。私の知る平業の狛犬とは若干意匠が異なるように見えます。若干25歳の作品なので未だ固定した意匠が定まっていなかったものと思われますが、それだけに私は新鮮な印象を持ちました。

歯と目に彩色が施されている事もありますが、それ以上に25歳の平業の若さが生み出すエネルギーを感じました。

氏子の人が震災で倒れそうになった狛犬を棒で保護したようです。子供の脇には牡丹が彫られています。2018.04.09

右の阿像から吽像を写しています。台座が震災で壊れて低くなったのか最初からそうだったのかは判断できませんが、見やすいのはありがたい事です。

やや大型の堂々たる狛犬です。2018.04.09

左に置かれた吽像と思われる狛犬は震災の被害が最小限に抑えられているようです。

表情に力がみなぎっているように見えます。籠彫りの玉のサイズもかなり大型です。彩色は今見て来た伊達市の水雲神社の色と極めて似ています。非常に良い狛犬に出会えました。平業はこれだけの狛犬を彫る事に何の不安も躊躇もないでしょうから、依頼し負担を背負った奉納した氏子の人に感謝しなくてなりません。2018.04.09

この玉の中にはどのような細工なのか分かりませんが、動く石塊が入っています。この細工は、時折見た覚えがありますが腕の冴えを密かに残したようです。十分感心し楽しませてもらいました。2018.04.09

台座に3行の文字が見られます。右の一行はハッキリしません。2行目にはほぼ”彫刻師”と推定できる文字、3行目には野田(一部欠落)が認められます。

奉納された大正12年が刻まれています。左の人名は奉納した氏子の人だと思われますが女性の名前が彫られています。

八幡神社の横を見てみました。隣は畑で後ろは家が建っているようです。町の中にある社です。

早朝県境の村をたって郡山ICまでは道々丁度満開の桜を辿りながら北上します。どれも静かな社の狛犬を巡るには相応しい一本桜です。郡山ICから東北道に乗り福島飯坂ICで降りて野田平業の狛犬を巡りました。

野田平業の地元・白河市から遠く離れた社に奉納された3つの狛犬はどれも出来の良い作品でした。帰路は二本松市で桜を見て、出発の県境の村に帰り着いたのは既に夕闇の迫る頃になっていました。一本桜と狛犬の今回の旅は、春の楽しい思い出として記憶に残る事でしょう。2018.04.09

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2018年7月20日
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